「あぁぁ……ぅっ、くぅっ」
エマが身じろぎするたびに、ベッドの脚がギシッと音を立てた。 羽毛ではなく藁が敷き詰められただけの薄いベッド。敷布は色褪せ、体を覆うシーツは摩耗している。 古い家具に分厚いだけのカーテンで覆われた、みすぼらしい部屋だが、今のエマには、それを嘆く余裕もない。 発情(ヒート)が始まって、どのくらい経ったのか。 「ぁぁッ、はぅ……ぁ、ンッ」 エマは苦痛に喘ぎながら、ベッドの上でひたすら耐えた。 高熱を出したときのように躰が熱く、額から汗がしたたり落ちる。 金色の短い髪が、首にぺたりと張り付き、少しだけ不快に感じる。だけど、それも一瞬だ。 腰の奥が激しく疼き、何度となく己を慰める。 それでも熱はおさまらなかった。 「はぁぁッ、ッ……ぁ、あぁぁっ」 吐き出す息さえ苦しくて、涙があふれる。 エマはベッドの上で身を丸め、シーツをかきむしった。 ジクジクと疼く熱は、エマの思考を快楽の淵に落とそうとしてくる。 「ンッ、ぅぅ……ッ」 抑制剤のない発情期が、これほどつらく苦しいものだと、エマは今まで知らなかった。 十四歳で初めて発情期を迎えた時からずっと、抑制剤を飲んで過ごしてきたからだ。 抑制剤を飲んでいても、発情期になれば微熱や倦怠感に悩まされていた。だから自分の体は、薬の効きが悪いのだと思っていたけれど、違ったのだ。 『オメガは、快楽に溺れる獣』 他国でそのように揶揄され蔑まれる理由を、この身をもって思い知った。 「んぁぁっ、ぁぁ、ァァッ」 木綿の夜着をはだけさせ、シーツで下半身を隠しながら、自らを慰める。 そうして精を放つと、疼きが和らぐからだ。 エマは自らの昂りを握りしめ、夢中で扱いた。 「ぁ、ァァッ……あぁぁんッ!」 発情(ヒート)した躰は、あっけないほど簡単に絶頂を迎える。 ビクビクと躰が震え、乱れた息を必死に整えていると、あざ笑う声が聞こえた。 「ハハッ。またイったのか?」 「ぁっ……で、殿下ッ」 ベッドにうずくまったまま、エマは顔を上げる。 豪奢な椅子に腰掛け、嘲りの笑みを浮かべているのは、栗色の髪と瞳を持つ、若い男。 最高級の生地で仕立てた服を纏い、意地の悪い顔をした彼こそが、第二王子のレオナールだ。「物欲しそうにヒクついて、下品な液を滴らせています。レオナール様に抱いて頂けると、勘違いしているのではないでしょうか」 嘲るような従者の言葉に、エマの肩が跳ねる。 侮蔑的な目で股間をジロジロと眺められ、言葉で貶され、エマは自尊心は深く傷ついていた。 けれど、快楽の熱に苦しむエマには、なすすべがない。 「ぁんッ……ぅぅッ」 襲ってくる疼きに、エマは自らの雄を高めようとした。しかし、嘲りの言葉をぶつける男達の前で、これ以上の醜態は晒したくない。 伸ばそうとした手を、グッと握り締める。 「はぁッ……はぁ、はぁぁっ」 「どうした? イきたいんじゃないのか?」 エマの様子に気付いたレオナールが、愉快そうに笑う。 「オメガの発情(ヒート)は、苦しそうだな。体が疼いてたまらないのだろう?」 「ぁ、……っ」 「どのように慰めるのか、見せてみろ」 自慰をしろと命じられ、エマは震えながら顔を伏せる。 頷かないエマに、レオナールが声を低くした。 「やれ」 「……」 「レオナール様の命が聞けないのか!」 従者が叱責し、エマに怒鳴る。 「卑しいオメガが、レオナール様の御前を許されているのだ。早くイって見せろ!」 「ぁッ……んんっ」 かすかに首を振って抵抗を示すと、従者がエマの髪を乱暴に掴んだ。 「ぁぁっ!」 「命令が聞けぬなら、お前の侍女が折檻を受けるぞ」 「ッ!?」 従者の脅しに、ハッと目を見開く。 エマの侍女は、幼い頃から仕えてくれている、姉のような存在だ。レオナールに目を付けられたら、酷い目に遭うかもしれない。 「……わ、分かりましたっ」 消え入るような声で答え、エマは目をつむる。 男達を視界から消して、昂ぶった半身をそっと握りしめた。 「はぁぁんっ、ァァ……んぁぁッ」 長く疼きに耐えていた躰は、刺激に敏感になっていた。 エマが軽く扱いただけで固く張り詰め、あっという間に絶頂へ達する。 「あぁぁーーッ!」 ドプッと精が放たれ、エマの手を濡らす。 達した開放感などなく、屈辱で涙をこぼした。 侮辱してくる男達の前で股間を晒し、自慰を強要され、エマのプライドはズタズタにされる。 (ぅぅッ……こんな人達の前で、イクなんて!) 悔しさのあまり唇を噛みしめるが、すぐに嘲笑が響く。
レオナールは苛立った仕草で杯を煽った。 「オレほど不幸な男は、大陸中を探しても他にいない! そうだろ?」 「ええ。誠に痛ましいことです」 従者は悲しむような声で同意し、レオナールに囁いた。 「レオナール様の御名を傷つけた者に、罰を与えるべきでは?」 「罰?」 「はい。アレはレオナール様の所有物です。レオナール様がどのように扱おうと構わぬ玩具ではありませんか」 従者は下卑た笑みを浮かべ、エマを見下ろした。 それに気を良くしたのか、レオナールが唇を歪める。 「そうだな。平民の分際でオレを笑い者にした罰は、受けてもらうぞ」 「ひッ……」 嫌らしく笑うレオナールに、エマは肩を震わせた。 鎮静剤も与えられず、悶え苦しんでいるのに、さらに苦痛を与えようというのだ。 危険を察したエマは、逃げようとベッドの上をずり上がる。 だが、エマにできる抵抗など、ささやかなものだ。 「貴様がどれほど卑しい存在か、分からせてやる」 レオナールの合図に、従者がベッドに近づく。 「ゃッ、こ、こないで……っ」 従者は顔色一つ変えず、怯えるエマからシーツを剥ぎ取った。 「ァァッ! ゃッ……はぁぁっ」 隠れていた下半身が、男達の前に晒される。 半勃ちの雄からは蜜があふれ、股間はドロドロに濡れている。 エマは必死で夜着の裾を引っ張って隠そうとしたが、レオナールの叱責が飛んだ。 「その醜い体を、自分でもよく見て覚えておけ」 「殿下が、汚らわしいオメガを見物して下さると言うのだ。もっと足を開いてお見せしろ」 「あぁぁっ!」 従者は乱暴な手つきでエマの足首を掴み、大きく開かせた。 「ひゃぁッ、ッ、ぁぁ……!」 レオナールに向かって、股間を晒す形になり、エマは羞恥で顔を背ける。 いくら発情しているとはいえ、軽蔑してくる相手に淫らな姿を晒すなんて、耐えがたい屈辱だった。 「はぁんっ、ぁっ……ァァッ」 腕で顔を覆いながら、唇を噛みしめる。 レオナールは杯を揺らしながら、ゆったりと椅子にもたれかかり、わざとらしく嘲笑した。 「見ろ、この下劣な盛(さか)り具合を」 「ええ。男と見れば、すぐ勃起してよだれを垂らす。さすが平民は違います」 「ハハッ。お前の言うとおりだな。穴はどうだ?」
帝国ではオメガ蔑視が強いと聞くけど、このランダリエ王国に限っては、オメガは『聖樹』と呼ばれる、尊い存在のはずだ。 ランダリエの神殿で身を清めて育ったオメガは、アルファと番うと「必ずアルファを生む」からだ。 そのために、王国では生まれた子供がオメガだと分かると、身分を問わず神殿に入れられる。 エマも、貧しい村で生まれたが、巡礼で訪れた神官に見いだされて『聖樹』となり、いずれ高貴なアルファに嫁ぐ身として、厳しい教育も受けてきた。 第二王子との婚約は王命だったが、立派な伴侶になろうと決意したのに……。 レオナールは、エマに名を呼ぶことも許さず、婚約式の後には『貴様には必要ない』と用意された婚約指輪も取り上げた。 「んぁッ……お、お願い、しますッ……どうか、薬を……ぅぅっ!」 「ふんっ。卑しい平民にやる薬などない」 苦しみから逃れようと縋っても、レオナールは冷たく言い放つ。 「ぁぁッ……ど、どうして……ァッ」 襲い来る熱に悶えながら、エマはレオナールに問いかけた。 「なぜ……このように酷い仕打ちを、なさるのですか?」 離れに軟禁され、薬を奪われ、発情期に入ったいま、激しい苦痛に苛まされる。 発情した体は、焼かれたように火照り、腰の疼きはやまず、いくらイってもまた昂ぶりが頭をもたげる。 もうまる一日、水しか口にできず、身悶え、汗と精液でシーツをびっしょりと濡らした。 疼く熱に苦しむエマを、レオナールは冷ややかに見下ろし、杯をギリッと握りしめる。 「なぜ、だと……!?」 レオナールが鋭い目でエマを睨み、怒声を上げた。 「王妃も、兄上の正妃も、公爵家出身の令嬢だ! それなのに、オレに与えられたのは平民の男だぞ!?」 レオナールは杯を床に投げ捨て、激昂する。 「貴様のせいで、オレはとんだ笑い者だ!」 「ッ……」 罵声を浴びせられ、エマは身を縮める。 けれど、それはエマが望んだことではない。 「こ、この婚約はッ、……陛下が、お決めになったことです……」 「ああ、そうだ!」 王命であることは、レオナールも理解しているはずだ。 それでも感情が抑えられないのか、腹立たしげに床を蹴った。 「くそッ……貴様が婚約者などと、考えるだけで虫唾が走るッ!」 吐き捨てるレオナールの隣で、静かに控えていた従
王族の婚約者に選ばれた者は、西殿の中にある「琥珀の館」へ移り住むのが慣例だ。だが、エマが案内された先は、その館の離れにある小さな部屋だった。 元々は使用人が住んでいた部屋を、レオナールがエマにあてがったのだ。 さらにレオナールは、エマの持ってきたわずかな荷物から、オメガに必要な抑制剤も、発情時の熱を静める鎮静剤もすべて奪い取り、離れで暮らすように命じた。 『貴様には、この使用人部屋で十分だろ?』 侮蔑のこもった目で見下し、エマを蔑んだ。 本来ならエマは、レオナールの婚約者として「琥珀の館」で閨を共にし、子を生むのが役目。 だがレオナールは、エマの発情期が始まると離れへやってきて、見物を始めたのだ。 ベッドで苦しむエマを見下ろし、酒の余興を楽しむように、ゆったりと寛いでいる。 レオナールの為に用意された、豪奢な椅子と大理石のテーブルだけが、古い部屋の中で輝きを放ち、異質な空間を生み出していた。 「んぅッ……はぁ、はぁっ……ァァッ」 エマはシーツで下半身を隠し、熱い息を吐きながら、レオナールを見上げる。 (苦しいッ……助けて……!) 薬さえあれば、まだ耐えられる。 レオナールに助けを求めようとしたが、醜悪な笑みを見てしまうと、声が出なかった。 「オメガというのは、浅ましいな」 レオナールは笑いながら、金細工の杯を揺らす。 ソファーに体を預け、足を組んで尊大な態度をとりながら、エマの痴態を冷たく見下ろした。 「このように卑しい平民の男が『聖樹(せいじゅ)』などと、ずいぶん馬鹿げた話だ」 不快そうに呟く王子に、側にいた従者が同意する。従者は蛇のような目でエマを冷たく睨み、吐き捨てるように答えた。 「仰るとおりです、レオナール様。『聖樹』とは本来、高貴な生まれのオメガが担うもの。平民ごときを『聖樹』に仕立てるなど、王族への冒涜です」 「まったくだ。見ろ、この卑しい有様を。人目もはばからず、自慰に耽ってるのだぞ?」 「ええ。汚らわしいオメガです」 レオナールの嘲笑に、側に控えた従者も侮蔑の目を向けてくる。 発情に苦しむエマを助けるどころか、あざ笑って、貶める。 婚約者とは思えぬ仕打ちに、エマは震えながら奥歯を噛みしめた。 なぜ、こんな目に遭うのか分からない。
「あぁぁ……ぅっ、くぅっ」 エマが身じろぎするたびに、ベッドの脚がギシッと音を立てた。 羽毛ではなく藁が敷き詰められただけの薄いベッド。敷布は色褪せ、体を覆うシーツは摩耗している。 古い家具に分厚いだけのカーテンで覆われた、みすぼらしい部屋だが、今のエマには、それを嘆く余裕もない。 発情(ヒート)が始まって、どのくらい経ったのか。 「ぁぁッ、はぅ……ぁ、ンッ」 エマは苦痛に喘ぎながら、ベッドの上でひたすら耐えた。 高熱を出したときのように躰が熱く、額から汗がしたたり落ちる。 金色の短い髪が、首にぺたりと張り付き、少しだけ不快に感じる。だけど、それも一瞬だ。 腰の奥が激しく疼き、何度となく己を慰める。 それでも熱はおさまらなかった。 「はぁぁッ、ッ……ぁ、あぁぁっ」 吐き出す息さえ苦しくて、涙があふれる。 エマはベッドの上で身を丸め、シーツをかきむしった。 ジクジクと疼く熱は、エマの思考を快楽の淵に落とそうとしてくる。 「ンッ、ぅぅ……ッ」 抑制剤のない発情期が、これほどつらく苦しいものだと、エマは今まで知らなかった。 十四歳で初めて発情期を迎えた時からずっと、抑制剤を飲んで過ごしてきたからだ。 抑制剤を飲んでいても、発情期になれば微熱や倦怠感に悩まされていた。だから自分の体は、薬の効きが悪いのだと思っていたけれど、違ったのだ。 『オメガは、快楽に溺れる獣』 他国でそのように揶揄され蔑まれる理由を、この身をもって思い知った。 「んぁぁっ、ぁぁ、ァァッ」 木綿の夜着をはだけさせ、シーツで下半身を隠しながら、自らを慰める。 そうして精を放つと、疼きが和らぐからだ。 エマは自らの昂りを握りしめ、夢中で扱いた。 「ぁ、ァァッ……あぁぁんッ!」 発情(ヒート)した躰は、あっけないほど簡単に絶頂を迎える。 ビクビクと躰が震え、乱れた息を必死に整えていると、あざ笑う声が聞こえた。 「ハハッ。またイったのか?」 「ぁっ……で、殿下ッ」 ベッドにうずくまったまま、エマは顔を上げる。 豪奢な椅子に腰掛け、嘲りの笑みを浮かべているのは、栗色の髪と瞳を持つ、若い男。 最高級の生地で仕立てた服を纏い、意地の悪い顔をした彼こそが、第二王子のレオナールだ。
エマの躰は燃えるように熱く、息を吐くのもやっとだった。 「はぁッ……んぅっ、ぅぅッ」 発情(ヒート)がくると、いつもこうだ。 エマが理性を保とうと必死で歯を食いしばっても、躰の奥が激しく疼いて仕方ない。 すでに成人を迎えたものの、まだ十六歳のエマにとっては、若さゆえに発情がことさら辛く感じられる。 発情期がくるたびに自室に引きこもり、一人で耐え抜くしかないと思っていたのに。 「私の、可愛いエマ」 エマを覗き込む、甘い眼差し。 銀色の長い髪にルビーのような赤い瞳は、まるで月の精のようだ。 エマが密かに恋い慕う、銀髪のアルファ。 「ぁんッ、はぁッ……る、ルシアン様ッ」 「エマ。もっと声を聞かせて」 耳元で囁く甘い声に、ビクビクと躰が震えた。 この場にいるはずのない彼が、火照ったエマの躰を慰めようとしてくれてるのだ。 「ぁぁん、ぁぁっ、やぁんっ」 乱れた夜着は、エマの秘部を露わにして、もう意味をなさない。 発情したエマは全身の肌を赤く染めて、張りつめた雄から白濁の蜜をこぼし、汗と愛液でシーツを濡らす。 エマはもう何時間もの間、躰の疼きを静めるために半身を慰め、一人で果てた。 何度も達しているせいで、ルシアンの指が肌を撫でただけで、身悶えてしまう。 (もっと、触って欲しい……っ) エマは無意識に腰を揺らし、ルシアンの緩い愛撫に喘いだ。 すると、ふいに股間をひと撫でされる。 「ひゃぁぁッ! ぁ、あぁぁんッ!」 淫らな刺激に、嬌声を上げる。 エマの瞳からは、ポロポロと涙があふれた。 快楽に悶えるエマの眦に、ルシアンがそっと口づける。 そして、耳元で甘ったるく囁いた。 「私の愛しい薔薇。貴方は、大人しく愛でられていれば良いのですよ」 「ぁんっ、そ、そんな……」 首を振るが、ルシアンの手は止まらなかった。 フッと笑みを浮かべ、エマの昂ぶった雄を扱く。 「ひゃぅぅッ!!」 「ああ、もうイってしまいましたか」 ビクビクと躰が跳ね、頭が真っ白になる。 だが、絶頂を迎えた躰に、容赦なく次の快楽が襲いかかった。 「ァ、ぁぁッ……んぁぁ、ァァッ!」 ルシアンのしなやかな指が、緩んだ蕾を掻き回したのだ。